「詳説ロボットの運動学:第6.1節ロボットアームの線形制御」への補足説明 2006.10.18

       −フィードフォワード制御(FF制御)−

9. FF制御:必要トルクの付加

10.FF制御系のいくつかの手法

11.FF制御の特徴

 

9.FF制御:必要トルクの付加

・前述のように(補足説明6.1.1),ロボットアームの関節駆動トルク(力)と関節変位の関係を表す動力学式は,自由度をnとすると

        (9−1)

  ただし :関節駆動トルク(力)(n次元ベクトル)

      :関節変位(回転・直動)

      :変動する慣性モーメント(質量)(n×n行列)

      :コリオリ項(n次元ベクトル)

      :関節速度と逆に作用する摩擦トルク

      G(Φ):重力項(n次元ベクトル), g:重力加速度

      :ヤコビアン,:外力・モーメント

・軌道を与えれば,その逆運動学から指令値として関節の変位が決まる.

・上式にを代入して計算されるをモータに与えれば,理論的にはの指令通りの運動が得られるはずである.

・これがフィードフォワードの考え方である.

 

10.FF制御系のいくつかの手法

 

・必要トルクの与え方にはいくつかの方法がある.

・どの方法にしろ,,ロボットの動的パラメータを正確に知ることはできないので,必要トルクに誤差が生じ,正しい軌道を得ることは難しい.位置誤差・速度誤差のフィードバック系を共に使うことは必要である.

・ドライバー・モータはトルク制御型でなければならない.

(1)関節変位指令値から必要トルクを計算する方法

・関節変位指令値から必要トルクを予め計算しておき,時間を追って系に加える方法である.

・この方法は計算機の負担が軽いという特徴がある.


・万一指令と応答が大きくずれたとき,真の必要トルクと計算したトルクがかけ離れ,却って誤差を大きくする恐れがある.

 

 

(2)応答から必要トルクを計算する方法

・応答の関節変位から必要トルクをリアルタイムに計算する方法である.

・自由度が大きいとき,必要トルクの計算に時間がかかり,制御のサンプルタイムを計算時間以上にする必要があるが,そのために制御性が悪くなる恐れがある.

(シミュレーションではロボットアームの運動は計算中に「ホールド」されているのでこの問題は起こらない.実際のロボット制御をシミュレーションするには計算中にもロボットが動いている状態を作らねばならない.

・誤差があるとき,時間tの各関節変位はその時刻にあるべきとは異なる.その場合には,となるtのときのを使って必要トルクを計算する.


・これは各関節がそれぞれのずれを独自に修正しようとする方法であり,軌跡をできるだけ正しくしようとする方法ではない.正しい軌跡にできるだけ早く戻すには,軌跡に垂直にトルクを与えるべきである.

 

 

 

(3)加速度制御


・誤差のフィードバックによる項に系の慣性行列を掛け算したものを必要トルクに加算したトルクを関節に与える.

 

 

・この系の関節駆動トルクは

       (10−1)

・応答

          (10−2)

 から決まる値である.

・誤差をと置き,コリオリ項・重力項などの計算値と実際値が等しいと仮定すると,に関する微分方程式が

                      (10−3)

 と,線形制御の式になる.

・これを一般に加速度制御と呼んでいる.

 

11.FF制御の特徴

・運動に必要なトルクを与えるので,応答が早く,高速運動が可能である.

・必要トルクの多少の誤差もFB制御が補うので,結果には大きく影響しない.すなわち必要トルクの計算は粗くても構わない.

・速度誤差のFBは,速度の遅れを補償していることを意味し,FFがなくても立ち上がりが良い.FFは加速度の遅れを補償していることを意味し,急激な旋回などの大きな加速度が必要な運動に有効である.

・モータには許容限界トルクが存在し,必要トルク+FBトルクが限界を超えない範囲内でのみ高速化が可能である.