「詳説ロボット運動学」第6.3節最短時間制御の補足説明 2007.2.1
1. TOCの前提
2. ロボットアームの動力学方程式
3. PTP運動のTOCの解法
4. PTP運動のTOCの手順
4.1 理論的なPTP運動のTOC手順
4.2 状態観測切り替え制御法
5. CP運動のTOCの解法
6. CP運動のTOCの実際的な制御法
・限りのある関節トルクによって最短時間で目標点に位置決めする(または目標軌道を描く)ことが最短時間制御(以下TOCと記す)の問題である.
・本書に述べたようにTOCはBang-Bang制御となる.従ってどの時刻で駆動トルクの正負を切り替えるかが分かればよい.
・ここではその切り替え時間を求める方法を述べる.
・また,実際にはノイズやロボットパラメータが正確でないなどを考慮したTOCシステムについて説明する.
1.TOCの前提
・制御対象:ロボット先端が限りある関節トルクによって最短時間で位置決め(PTP運動),または軌道描画(CP運動)する制御を考える.
2次元ロボットによる2次元運動とする.
・関節トルク:ロボットはトルク制御できるタイプとする.そしてそのトルクには限界があるとする.
・摩擦:ロボット減速機には摩擦損失があるとする.
・重力:重力を考慮する場合(垂直運動)と考慮しない場合(水平運動)を考える.
・誤差:ロボットパラメータ(質量・慣性モーメントなど)の見積もりに誤差があるとする.
誤差は位置決め精度に大きく影響する.
その影響をなくして精度を保つのが実用的なTOCである.
2. ロボットアームの動力学方程式
・動力学方程式の2つの例を示す(上記著書94〜99p参照).この2つはシミュレータで扱う.
・円筒座標ロボットの動力学方程式の各項は
(2−1)
, (2−2)
, (2−3)
, (2−4)
ただし,はアーム・ワークの質量,はアーム・ワークの各重心回りの慣性モーメント, はアーム・ワークの回転中心から各重心までの距離である.またを表す.
・SCARAロボットの動力学方程式の各項は
(2−5)
(2−6)
(2−7)
(2−8)
(2−9)
(2−10)
(2−11)
(2−12)
・この式を一般化すると (2−13)
(2−14)
あるいは
(2−15)
,(円筒座標ロボット),,(SCARAロボット)(2−16)
・状態関数表示に書き換える.
(2−17)
, , (2−18)
3.
・始点P0から速度0で出発し,終点Pfに速度0で停止する運動とする.
始点・終点の位置を関節変位に変換した値を,とすると
:, : (3−1)
位置決め時間は未知である.
・駆動トルクには限りがあるとする.その正負の限界トルクをとする.
・本書で述べたように,TOCはBang-Bang制御になる.
・駆動トルク限界値の正負を切り替える時刻は3つありこれをとする.
・終端時間(位置決め時間)を含めて時間ベクトルをとする.
・tを求めることがTOC問題である.
・tを与えて状態方程式(2-17)式を初期状態から解くとの状態が決まる.
・すなわち終端値はtの関数としてと表せる.
・目標の終端値を与える時間ベクトルは図4のようにNewton法で求めることができる.
・得られた時間ベクトルtの中のが位置決めの最短時間である.
・各切り替え時刻間のトルクの状態をここで「トルクパターン」と呼ぶことにする.
・tの切り替えによる各トルクパターンをロボットの関節駆動トルクとして与えれば目標の終端値となる筈である.
・TOCは他の最適制御と同様に,基本的には最適な入力を決める問題であり,制御にはフィードバックの概念はない.
4.PTP運動のTOCの実際的な制御方法
・のときの理論的な状態(ロボットの関節変位・速度)を(k=1,2,3)とする.
・の理論的な状態をとする.これは目標値である.
・理論的な制御ではフィードバックがないのでロボットパラメータの推定誤差や外乱が目標精度に大きく影響する.
・これをなくすために計算した切り替え時刻だけに頼らない,実際的な制御法が必要である.
・実際的な制御方法はいろいろ考えられているが,ここでは理論的な制御法と状態観測切り替え制御法を示す.
4.1 理論的なPTP運動のTOC手順
・4.2項との比較のために,計算した切り替え時刻でトルクパターンを切り替え,終了する制御手順を図5に示す.
・大砲を撃つのと同じで,わずかな狙いの誤差や風などによって目標に命中することは期待できない.
4.2 状態観測切り替え制御法
・理論的な切り替え時刻で切り替えるのでなく,その時刻にあるべき状態(関節変位・速度)に実状態が最も近づいたときに切り替えるというものである.
・また目標値に最も近い瞬間から通常のフィードバック制御を行う.
・これによって位置決め時間は理論値と大きな違いはなく,目標値への到達も保証される.
5. CP運動のTOCの解法
・CP運動のTOCは本書に述べたように,軌道上で2つの関節の中のどちらか一方が最大トルクを出し他方が限界範囲内のトルクを出す.
・このことを直角座標ロボットによる斜め直線(傾きβ)の描画を考えてみるとよく理解できる.
・X,Y方向の加減速限界値は同じとして,βが小さければX方向の動きはY方向より大きいので,X軸加速度を最大とし,Y軸の加速度は小さめにしなければならないことは容易にわかる.
・曲線描画では,接線の傾きβが小さいときはX軸加速度,傾きが大きいときはY軸加速度を最大とし,他を小さめにする.β=45゜で最大加速度の切り替えをすればよいような気がするが,曲線描画では遠心加速度やコリオリ加速度があるのでそれほど単純ではない.
・この限界加速度切り替えの時刻を求めることがCP運動のTOCの問題である.
・本書で述べたように,軌道上の移動量をsとすると,各関節の必要トルクはsの関数として
,
と表せる.
・限界トルクをとすると,各関節から決まる正負の最大加速度,は
のとき ,
のとき ,
・が取り得る最大加速度は(最大減速度は)の絶対値の小さい方であり(大きい方を取ると他方の関節トルクが不足する)
このように,出し得る最大加速度で軌道を動く運動がCPのTOCである.
・図8(本書119ページ図6.21再掲)に直角座標ロボットによって半円を最短時間で動かす例を示す.
・動力学方程式は
,
・駆動力の限界(加減速の限界)を
とする.
・始点から中央のP2点までは最大加速し,後半で最大減速するのが解である.
・この加速から減速への切り替え点は,図8(a)の位相平面で始点からのトラジェクトリと終点からの逆時間で求めたトラジェクトリの交点によって与えられる.
・1/4円弧の軌道では,TOCのトラジェクトリが禁止領域に関わることなく終点に到っているが,1/2円弧では90゜動く前に第2の禁止領域に入ってしまう.それを避けるために禁止領域の境界となる限界最大減速トラジェクトリとの交点からこのトラジェクトリを辿る.
・このとき図のの境界点を通り,右側の最大加減速可能な領域に入って目標までのトラジェクトリを描くことができる.
・一般に始点から終点までの禁止領域に入らないように加減速のトラジェクトリとその切り替えは図で判断する.
・計算機の中だけで論理的に切り替え点を見付けることは困難である.
6. CP運動のTOCの実際的な制御法