8.2.PTP運動の最短時間制御のパラメータ誤差による位置決め誤差)
(「詳説ロボットの運動学」第6.3節,本ホームページ補足説明参照) 2007−4−15
ソースファイル PTPtocctrl2source 実行ファイル PTPtoctrl2exe
・ロボットの動力学方程式において質量・慣性モーメントなどの動的なパラメータを正しく推定できないことがしばしば生じる.
・そのロボットパラメータの推定誤差がPTP運動の最短時間制御(TOC)の位置決め精度にどの程度影響するかを見る.
・その影響の程度を重力の有無・減速比によって違いがあるかを見る.
・対象とするロボットは円筒座標ロボット・SCARAロボットの2種とする.
(1)
ロボットの条件設定と誤差の設定
・ロボットの諸元は決まっている.その詳細は3.8.1PID制御との比較で述べたものと同じであり,ここでは省略する.
・駆動モータ関節間の減速比は変えられるとする.
・アーム先の質量の誤差を与えてその位置決め精度への影響を見る.
・また,駆動トルクの切り替え時刻誤差を変えて位置決め精度への影響も調べる.
・位置決め誤差はTOCの終端時刻で変位と速度の誤差を加算した位置誤差を数値[m]で文字画面に表示し,描画画面では変位誤差が終端時刻後にFBCによって目標位置に収束する様子を表示する.
・上記位置誤差の計算は次のようにする.
各関節のTOC終端時刻の目標に対する変位・速度誤差を,とする.
終端時刻後はFBCのゲインから決まる固有振動数の自由振動する(残留振動)と考えて,その振動振幅を各関節の誤差とする.
,
この関節誤差を作業空間に変換したものが位置誤差である.
[シミュレーションの使い方]
(1)使用フォルダー名:3-8-2robtoctrl2 ( プログラム名robPTPtoctrl2.c, PTPTOC.H, graph2d.h )
(2)文字画面でのキー操作
(1)スタート → (ロボット諸元等の設定)→ (2)ロボット(円筒座標 or SCARA)を選定
→ (3)重力考慮の有無設定 → (4)ロボット設定諸元を使う?:yes → (6)計算へ
:no → (5)ロボット諸元の変更 → (6)計算へ
(5)ロボット諸元の変更の内容:(5-1)減速比変更 → (5-2)PTPの始点終点変更
→ (5-3)質量・切り替え時刻のどちらの誤差を仮定する? → (5-4)誤差比率設定
(6)(TOC制御計算)→ (7)描画画面へ
(3)描画画面での表示
(1) 左半面にTOC制御とPID制御結果のロボットの運動・拡大した誤差位置の図
(2) 右上に関節変位・変位誤差の時間変化,右中央・下にトルクの時間変化のグラフ
(4)描画画面でのキー操作
‘s’:上記運動の時間経過(sを押し続けると時間的に変化する)
‘0’:運動を始点に戻す
‘W’ or ’w’:ロボット図の拡大縮小
‘a’ or ‘b’:ロボットを選択して文字画面(4)へ
‘g’ or ‘h’:重力考慮の有無を変更して文字画面(4)へ
‘u’:文字画面へ戻って(5-1)減速比変更へ
‘k’:文字画面へ戻って(5-2)PTPの始点終点変更へ
‘m’ or ‘t’:文字画面へ戻って質量誤差か切り替え時刻誤差かの選択し,誤差比率入力
‘ESC’:終了
[註]ロボットのアーム長・モータ慣性モーメント等は変更しない.
計算を済ませてから画面表示する.
TOC制御の計算はトルクの切り替え時間を求める計算とそのトルクパターンによる制御計算をする.
切り替え時間の解がない場合がある.このときは設定を変える.
TOC制御で終端時間を過ぎたら後は終点での位置決め制御に移る.
[ロボットパラメータ誤差の位置決め精度への影響]
(1)
ロボット質量の推定誤差の影響
・インピーダンスマッチングの減速比(ここではu=50)のとき,おおざっぱに言って質量誤差の%は位置決め誤差の%と同等である.
・減速比が大きくなると質量推定誤差の影響は小さくなる.これは相対的にモータ慣性モーメントの関節軸換算値が大きくなり,アーム側の誤差の影響が小さくなるためである.
・しかしモータ慣性の推定誤差は減速比に関係なく同等の位置決め誤差となる.(このシミュレーションはここでは行っていない)
・重力の有無は推定誤差の影響の程度を若干大きくしているようであるが,確かでない.
・一般化して類推すると,パラメータ推定誤差はアーム長・角度等の幾何学的誤差や質量・慣性モーメント等の動的パラメータ誤差が統計的に加算されて位置決め誤差に影響すると言える.(単なる和ではなく,相殺する場合もある)
・TOCのようにフィードバックのない制御では位置決め精度が悪いと思わなければならない.
(2)切り替え時刻の誤差の影響
・切り替え時刻誤差の影響は大きい.1%以下の位置決め誤差とするためにはms単位の切り替え精度を保たなければならない.
・これは切り替え時刻のわずかなずれによる軌道(速度)のわずかな誤差が時間を経るにつれて累積され,大きくなるからである.
・実際にはms単位の精度で切り替えを行うことは難しい.
・このことからも,フィードバックなしのTOCは位置決め精度が悪いと言える.