8.3. PTP運動の状態観測最短時間制御   2007−4−15

(実行ファイル3-08-3robtoctrl3exe

(「詳説ロボットの運動学」第6.3節,本ホームページ補足説明参照)

 

・ロボットの動力学方程式において質量・慣性モーメントなどの動的なパラメータを正しく推定できないことがしばしば生じる.

・そのロボットパラメータの推定誤差がPTP運動の最短時間制御(TOC)の位置決め精度に影響する.(「3.8.3 PTP運動の最短時間制御のパラメータ誤差による位置決め誤差」参照)

・その影響を小さくする1つの方法として状態観測最短時間制御(State Observed Time Optimal CotrolSOTOC)がある.

・これは駆動トルクの切り替え時刻を理論値でなく,計算で得たその時刻の状態(関節変位・速度)に実際の状態が最も近くなったときに切り替えるというものである.


 

・最後の切り替え時刻で目標値となるとは限らないのでその後は位置フィードバック制御を行う.

・このような制御方法で,パラメータ誤差による位置決め誤差が如何に改善されるかを見る.

 

(1)   ロボットの条件設定と誤差の設定

 

・対象とするロボットは円筒座標ロボット・SCARAロボットの2種とする.

・ロボットの諸元は決まっている.その詳細は3.8.1PID制御との比較で述べたものと同じであり,ここでは省略する.

・駆動モータ関節間の減速比は変えられるとする.

・アーム先の質量の誤差を与えて通常のTOCSOTOCの位置決め精度への影響を見る.

・位置決め誤差はTOCの終端時刻で変位と速度の誤差を加算した位置誤差を数値[m]で文字画面に表示し,描画画面では変位誤差が終端時刻後にFBCによって目標位置に収束する様子を表示する.


 

・位置誤差は3.8.2で述べたように,残留振動の振幅とする.

 すなわち,各関節のTOC終端時刻の目標に対する変位・速度誤差をFBC系の固有振動数をとすると,位置誤差は

    

    

 と表される.

 

[シミュレーションの使い方]

 

(1)使用フォルダー名3-8-3robtoctrl3 ( プログラム名robPTPtoctrl3.c, PTPTOC3.H, graph2d.h )

(2)文字画面でのキー操作

 (1)スタート (ロボット諸元等の設定)→ (2)ロボット(円筒座標 or SCARA)を選定

       (3)重力考慮の有無設定 (4)ロボット設定諸元を使う?:yes (6)計算へ

      :no (5)ロボット諸元の変更 (6)計算へ

  (5)ロボット諸元の変更の内容:(5-1)減速比変更 (5-2)PTPの始点終点変更

  (5-3)質量誤差比率設定

 (6)TOCSOTOCの計算)→ (7)描画画面へ

(3)描画画面での表示

 (1) 左半面にTOCSOTOC結果のロボットの運動・拡大した誤差位置の図

 (2) 右上に関節変位・変位誤差の時間変化,右中央・下にトルクの時間変化のグラフ

(4)描画画面でのキー操作

 ‘s’:上記運動の時間経過(sを押し続けると時間的に変化する)

 ‘0’:運動を始点に戻す

 ‘W’ or ’w’:ロボット図の拡大縮小

 ‘a’ or ‘b’:ロボットを選択して文字画面(4)

 ‘g’ or ‘h’:重力考慮の有無を変更して文字画面(4)

 ‘u’:文字画面へ戻って(5-1)減速比変更へ

 ‘k’:文字画面へ戻って(5-2)PTPの始点終点変更へ

 ‘m’:文字画面へ戻って質量誤差比率変更へ

 ‘ESC’:終了

[註]ロボットのアーム長・モータ慣性モーメント等は変更しない.

計算を済ませてから画面表示する.

   切り替え時刻の解がない場合がある.このときは設定を変える.

   TOC制御で終端時間を過ぎたら後は終点での位置決め制御に移る.


 

[ロボットパラメータ誤差に起因する位置決め誤差の状態観測最短時間制御による改善]

 

・誤差が小さいときはSOTOCによる改善は微小か,または返って悪くなることもある.

・重力がある(垂直運動)ときは誤差の改善が著しい.

・行程が長いときは位置決め誤差が大きいが,この場合もSOTOCの効果が大きい.

・減速比が大きくなると質量推定誤差の影響は小さく,従ってSOTOCの効果も小さい.

・総合的にSOTOCはロボットパラメータ推定誤差の影響を小さくすると言える.