12.0.5 経路と制御変数及び走行所要時間 改訂2008−10−16
・制御変数とは駆動輪速度・旋回速度・ステアリング速度のことである.
0.5.1 経路と制御変数の関係
・以下は軌道に沿う走行速度と旋回速度またはステアリング速度を加えたによって求める.
・直線と円弧の繋ぎ合わせの軌道の軌道に沿う速度表現は簡単である.
(a)直線軌道
が与えられ,である.
従って制御変数またはは
(1)2DW1C機構: (5-1-1)
(2)1FDW1FS機構: , (5-1-2)
(3)1RDW1FS機構: , (5-1-3)
(b)円弧軌道
が与えられると(R=一定)である.
曲率中心が移動ロボットの左側にあるとき曲率(曲率半径)が正と定義する.
(1)2DW1C機構: , (5-1-4)
(2)1FDW1FS機構: , (5-1-5)
(3)1RDW1FS機構: , (5-1-6)
・φの式から分かるように,直線−円弧−直線のつなぎではφが急に変わり,(2),(3)タイプのAGVはついていけない.このような場合,円弧の代わりにクロソイド曲線を使う.
(c)クロソイド軌道
・各移動ロボットの機構の制御変数は,3.12.04節Clothidの曲率の式(4-2), (4-3), (4-23), (4-25)を使って
(1)2DW1C機構: , (5-1-7)
(2)1FDW1FS機構: , (5-1-8)
(3)1RDW1FS機構: , (5-1-9)
・ステアリングを持つ(2),(3)の機構では,直線から円弧へのつなぎ目でκが不連続に変わり,φはその急激な変化に着いていけないがクロソイド曲線ではそのようなことがなくスムースに動けることが分かる.
0.5.2 定速走行の直線・円弧・各クロソイド軌道の所要時間
・AGVの駆動輪の出し得る最大速度とし,その速度で走行すると仮定する.
・経路に沿う走行速度は2DW1C, 1RDW1FSの場合はであり,1FDW1FSではステアリング角をφとして,である.
(a)直線の定速駆動所要時間
直線経路長をとすると,どのAGV機構でも
(
(b)円弧の定速駆動所要時間
円弧の経路長をとすると
2DW1C,1RDW1FSの場合 (5-2-2)
1FDW1FSの場合 () (5-2-3)
(c)クロソイド曲線の定速駆動所要時間
クロソイド曲線の経路長をとすると
(c−1)2DW1C,1RDW1FSの場合
(
(c−2)1FDW1FSの場合
ステアリング角が一定でなく,走行速度が位置によって異なる.
台形クロソイド曲線の立ち上がり部分長さをとし,その走行時間をとする.
経路上の曲率 (5-2-5)
ステアリング角 (LはAGVのトレッド(軸距))
走行速度 (5-2-6)
走行の運動方程式 → (5-2-7)
であるから上式は
(
立ち上がり部走行時間 (5-2-9)
一定曲率部の走行時間 (5-2-10)
ただし,は曲率一定の経路長さ
全所要時間
(5-2-11)
・以上述べたように,直線・円弧・クロソイド曲線などの曲率が簡単に分かる場合には,軌道に沿う速度と回転速度で表現する方が位置姿勢(その速度)で表現するより簡単である.
0.5.3 経路を正しく辿るための限界ステアリング速度を考慮した走行速度の変化
・ステアリング付きAGV(1FDW1FS, 1RDW1FS)では急に向きを変えることができない(ステアリング速度の限界がある).2DW1C機構は以下の議論に関係ない.
・曲率が急に変化するとステアリングが着いていけないので,走行速度を下げる必要がある.
・直線から円弧,直線からクロソイド曲線に移るとき,限界ステアリング速度を考慮して走行速度をどうすればよいかを計算する.
0.5.3.1 直線から円弧への可変速移行と所要時間
・曲率が急に0からに変わるので,ステアリング輪がその方向に向くまで停止しなければならない.
・円運動に必要なステアリング角φは
(LはAGVのトレッド) (5-3-1-1)
であり,限界ステアリング速度をとすると
(5-3-1-2)
の時間停止させ,になってから走行に移行する.
・移行後の円弧上(円弧長)の走行速度と時間は,1FDW1FSでは,
(5-3-1-3)
(5-3-1-4)
1RDW1FSでは
(5-3-1-5)
(5-3-1-6)
である.
・直線−円弧が終了するまでの時間は
(5-3-1-7)
・直線−円弧−直線に移行するときは更にの停止時間が必要であるから
(5-3-1-8)
である.
0.5.3.2 直線から台形クロソイド曲線立ち上がり部への可変速移行と所要時間
(a)2DW1C機構
・このAGVは如何なる曲率変化にもついていけるので,走行速度はであり,クロソイド曲線の全長をとすると走行する時間はである.
・最大曲率で旋回するステアリング角はである.
(b)1FDW1FS機構
ステアリング角は
(5-3-2-1)
微分して
(5-3-2-2)
(b−1)
限界ステアリング速度を考慮したクロソイド立ち上がり部の走行速度
(5-3-2-3)
(5-3-2-4)
(5-3-2-5)
と置く.はステアリング速度を考慮した限界走行速度であり,は1FDW1FSの駆動輪の出し得る最大走行速度であり(ステアリング角によって変わる),実際の走行速度はどちらか小さい方をとる.
(b−1−1)(ステアリング速度による走行速度の制限がある場合)
・初めはステアリングがついていけないことを意味し,の走行速度を暫くは出すことができない.
・となるステアリング角をとする.
(5-3-2-6)
(5-3-2-7)
(b-1-1-1) のとき(となる前にとなる場合)
・: , (5-3-2-8)
すなわちステアリングがついていけず最大走行速度を出せない.
・:, (5-3-2-9)
この区間は最大走行速度が出せる.ステアリングはそれに着いていく.
・:, (5-3-2-10)
ステアリング角は一定であり,最大速度で走行する.
(b-1-1-2) のとき(となる前にとなる場合)
・:, (5-3-2-11)
ステアリングがついていけず最大走行速度を出せない.
・:, (5-3-2-12)
ステアリング角は一定であり,最大速度で走行する.
(b−1−2) (ステアリング速度の制限を受けない場合)
・最初から最大走行速度の走行速度を出すことができる.これは曲率の変化が緩やか(が大きい)ということである.
・:, (5-3-2-13)
・ :,
(5-3-2-14)
(b−2)
限界ステアリング速度をを考慮したクロソイド立ち上がり部・全曲線の走行時間
(b-2-1) ()
・曲率変化にステアリングがついていけないので,走行速度を徐々に上げる.
・で走って限界走行速度になるまでの時間をとする.
・限界走行速度となるまでのステアリング角をとすると
(5-3-2-21)
(b-2-1-1) のとき
・前述のようにではでとなるまでの時間はである.
・その間に走る距離は
(5-3-2-22)
・ではであり,からとなるまでの時間は
→ (5-3-2-23)
(5-3-2-24)
但し (5-3-2-25)
∴ (5-3-2-26)
となる.
・この間に立ち上がり部の残りの距離を走るように走行速度が調整されている.
・クロソイド立ち上がり部が終了するまでの時間は
(5-3-2-27)
・クロソイド一定曲率部の長さをとすると,この部分の走行時間は
(5-3-2-28)
・クロソイド全行程の走行時間は
(5-3-2-29)
(b-2-1-2) のとき
・からとなるまで(,となるまで)ステアリング速度に拘束される.すなわちでは走行速度,ステアリング速度で走り,では一定速度で走る.
・となるまでの走行時間は
(5-3-2-31)
・クロソイド一定曲率部の長さをとすると,この部分の走行時間は
(5-3-2-32)
・クロソイド全行程の走行時間は
(5-3-2-33)
(b-2-2) ()
・曲率変化にステアリングがついていけるので,,となるまで最大走行速度であり,ステアリング速度はそれに合わせてである.
・となるまでの時間は
(は(8-2-25)式) (5-3-2-34)
である.
・前と同様に,クロソイド一定曲率部の長さをとすると,この部分の走行時間は
(5-3-2-35)
・クロソイド全行程の走行時間は
(5-3-2-36)
(c)1RDW1FS機構
・1FDW1FS機構の走行最大速度を,の代わりにとすればよい.
(c−1)
限界ステアリング速度を考慮したクロソイド立ち上がり部の走行速度
(c-1-1) (ステアリング速度による走行速度の制限がある場合)
・曲率変化にステアリングがついていけないので走行速度を下げる.
(走行速度を徐々に上げる) (5-3-2-51)
この状態がとなるまで,またはとなるまで続く.
どちらが先でもその後はの一定走行速度で,立ち上がり部が終了するまで続く.
・となるステアリング角をとする.
(5-3-2-52)
(5-3-2-53)
(c-1-1-1) ならば
・: , (5-3-2-54)
すなわちステアリングがついていけず最大速度を出せない.
・:, (5-3-2-55)
または (5-3-2-56)
ただし,tはこの関数の始まりを0とする.
・: , (5-3-2-57)
(c-1-1-2) ならば
・:, (5-3-2-58)
・:,
(5-3-2-59)
(c-1-2) ()(ステアリング速度の制限を受けない場合)
・曲率変化にステアリングがついていけるので
, (走行速度は定常でよい) (5-3-2-60)
または (5-3-2-61)
この最大走行速度でもステアリング速度がついていけるので,φに関係なく立ち上がり部が終了するまで続く.
(c−2)
限界ステアリング速度をを考慮したクロソイド立ち上がり部・全曲線の走行時間
(c-2-1) ()
・曲率変化にステアリングがついていけないので,走行速度を徐々に上げる.
・で走って限界走行速度になるまでの時間をとする.
・限界走行速度となるまでのステアリング角をとすると
(5-3-2-61)
(c-2-1-1) のとき
・前述のようにでは走行速度,限界ステアリング速度で走り,では,で走り,では,()で走る.
・間にとなるまでの時間はである.
・この間に走る距離は
(5-3-2-62)
・(からまで)間に走る時間は
(5-3-2-63)
この間にφはからになっている.
・クロソイド立ち上がり部が終了するまでの時間は
(5-3-2-67)
・クロソイド一定曲率部の長さをとすると,この部分の走行時間は
(5-3-2-68)
・クロソイド全行程の走行時間は
(5-3-2-69)
(c-2-1-2) のとき
・立ち上がり部全域でステアリング速度に拘束される.すなわち()では走行速度,ステアリング速度で走り,では一定速度,()で走る.
・その立ち上がり部の走行時間はステアリング速度を最大のとして,
(5-3-2-70)
・クロソイド一定曲率部の長さをとすると,この部分の走行時間は
(5-3-2-71)
・クロソイド全行程の走行時間は
(5-3-2-72)
(c-2-2)
・曲率変化にステアリングがついていけるので,限界走行速度,ステアリング速度
で走行する.
・立ち上がり部の走行時間は
(5-3-2-73)
・前と同様に,クロソイド一定曲率部の長さをとすると,この部分の走行時間は
(5-3-2-74)
・クロソイド全行程の走行時間は
(5-3-2-75)
0.5.4 一定走行速度によるAGVの台形クロソイド経路追従の微分方程式
・一定速度走行するAGVは,2DW1C機構以外ではステアリングが曲率の変化についていけない場合があり,シミュレーションではそのずれが経路によってどのように変わるかを見る.
・駆動速度・ステアリング速度は最大値,を取るとする.
・予め決められた経路があり,走行距離sによって直線から曲線,またはその逆の切り替えを行うとする.すなわち,経路からはずれたら修正するフィードバック制御は行わないとする.
・駆動輪の回転角(駆動輪の走行距離)とステアリング角φはAGVの内界センサによって分かるとする.
・駆動輪の回転角からAGVの走行距離sが分かる.運動の微分方程式には駆動輪変位を陽には取り上げない.
・すなわち,AGVに分かるのは走行速度・距離s,ステアリング速度・角φである.
・台形クロソイド経路の曲率変化の立ち上がり・定常曲率・立ち上がりの経路長,,,全クロソイド長,最大曲率,最大ステアリング角は既知である.
・反時計回りの曲率・ステアリング角を正(κ>0,φ>0),時計回りの曲率・ステアリング角を負(κ<0,φ<0)とする.
・以下の微分方程式は1FDW1FS,1RDW1FS機構に適用する.2DW1C機構は急なステアリングが可能なので定速走行でも理論的な経路を辿ることができる.
・,およびの関する微分方程式,曲率κは以下の通りである.
2DW1C,1RDW1FS: (5-4-1)
1FDW1FS:
(のとき:理論値に遅れたときは全速で遅れ回復) (5-4-2)
(のとき)
ただし (:理論的なステアリング角)
:実軌道の曲率(遅れたときはκcと異なる.) (5-4-3)
(:立ち上がり部 :理論的な曲率)
(:定常部)
(:立ち下がり部)
( 理論的なAGV向きの変化率) (5-4-4)
(:理路的なX方向位置)
(5-4-5)
(:理論的なY方向位置) (5-4-6)
・三角クロソイド曲線では定常部()とすればよい.
・円弧軌道では理論曲率を
(=一定),()
とすればよい.
3.12.05.5 可変走行速度によるAGVの台形クロソイド経路追従の微分方程式
・台形クロソイド曲線を可変走行速度で追従するステアリング角・走行速度の図を再掲する.
・駆動速度・ステアリング速度は可変であるが,最大値は,を取るとする.
・予め設定した経路があり,AGVは走行距離sによって直線から曲線,またはその逆の切り替えを行うとする.すなわち,経路からはずれたら修正するフィードバック制御は行わないとする.
・AGVに分かるのは走行速度・距離s,ステアリング速度・角φとする.
・台形クロソイド経路の曲率変化の立ち上がり・定常曲率・立ち上がりの経路長,,,全クロソイド長,最大曲率,最大ステアリング角,,は既知である.
・,(1FDW1FSの場合),(1RDW1FSの場合)も既知である.なお,のときはとする.
・反時計回りの曲率・ステアリング角を正(κ>0,φ>0),時計回りの曲率・ステアリング角を負(κ<0,φ<0)とする.
・以下の微分方程式は1FDW1FS,1RDW1FS機構に適用する.2DW1C機構は急なステアリングが可能なので理論的な経路を辿ることができる.
・,およびの関する微分方程式,曲率κは以下の通りである.
((),または()のとき) (5-5-1)
(1FDW1FS:,またはのとき)
(1RDW1FS:,またはのとき)
ただし
(のとき 定常旋回部) (5-5-2)
(()または()のとき
:立ち上がり・立ち下がり部で駆動速度を下げたとき)
ただし ,
(1FDW1FS:,またはのとき)
(1RDW1FS:,またはのとき)
:立ち上り・立下り部で駆動速度Vmaxのままのとき)
ただし
:実軌道の曲率(可変速なので理論値κcと同じ筈) (5-5-3)
( 理論的な姿勢) (5-5-4)
(:理路的なX方向位置)
(5-5-5)
(:理論的なY方向位置) (5-5-6)
・三角クロソイド曲線では定常部()とすればよい.
・円弧経路では,始点で曲率が急に変わるので,一旦停止してステアリング角を曲率に合わせてとなるまで待たねばならない.円弧から直線に移る場合も同様である.