4.2.3 カム機構の解析シミュレータ                2006.6.7

 

 平面カム機構について3種の解析シミュレーションを行う.

 

(1)       板カムの輪郭曲線創成(フォルダ名 camprofile(C++) 4-2-2cam(MSC)

 

● カム機構の種類

 1−1.回転板カムと直動尖端従節機構

 1−2.回転板カムと直動きのこ従節機構

 1−3.回転板カムと直動ローラ従節機構

 1−4.直動カムと直動尖端従節機構

 1−5.直動カムと直動ローラ従節機構

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

● 特徴

・カム曲線(立ち上がり曲線)はまたはである.

・αは圧力角であり,αが大き過ぎると従節に対し横方向の大きな力が加わり動きが悪くなる.

・回転カムの場合,基礎円半径が大きいほどαは小さい.直動カムの場合はカムの行程が大きいほど小さい.

・基礎円が小さ過ぎると,きのこ型従節とローラ従節では従節の上昇から下降に移る急激な変化ができない.

・この場合,急激な変化のある部分でカムが尖る.尖った部分で平板やローラは連続的に転がり,本来の従節運動は得られない.従節が工具でカムを切削するケースではせっかく創成された輪郭を削り落とす(切り下げ:undercut).

・圧力角は大きすぎると力学的に無理が生じ,スムースな運動ができなくなる.尖端従節では1520°,ローラ付き従節では45°程度が限度である.

 

 

 

● シミュレータの使い方

フォルダcamprofile内のcamprofile.cgraph2d.hを1つのワークスペースに入れてcompileする.

・スタート →(文字画面上で)カム機構の選択

  予め設定した諸元でカム機構・カム曲線図・圧力角変化図描画

  (描画画面上で)’s’キーで運動継続, または画面操作

  ESCキーで終了

・描画画面上での操作

 ‘s’:運動継続

 ‘w’,’W’:描画の縮小拡大

 ‘r’:運動の逆転(正から逆へ,逆から正へ)

 ‘1’’5’:カム機構の変更(変更後文字画面に戻って基礎円(全行程)設定)

 ‘g’:(文字画面に戻って)基礎円(回転カムの場合のみ)変更

 ‘t’:(文字画面に戻って)立ち上がり行程の角度(直動距離)変更

 ‘c’:回転カム+3種従節,または直動カム+2種従節のカム形状と圧力角変化の比較図表示

 

・従節によるカム形状の違いの比較では,基礎円・立ち上がり行程は同じとする.

・数値の変更は文字画面で行う.

 

(2)       カム曲線とその速度・加速度(フォルダ名 camcurve

 

 正規化したカム曲線について変位S(T)・速度V(T)・加速度A(T)の表示と比較を行う.

 ここに0<T<1,  0<S<1である.

 

● カム曲線の種類

・ここで言うカム曲線は両端停止運動(静止状態から別の静止状態への推移運動)であり,位置決め運動である.

・運動の性質上,両端で速度=0(速度が連続)となる曲線である.両端で加速度=0(加速度が連続)となる必要はないが,高速運動では(3)で述べる振動特性を考慮すると加速度=0が望ましい.

2−0 等加速度曲線(parabolic) :加速度不連続

2−1 単弦曲線(harmonic):加速度不連続

2−2 サイクロイド曲線(cycloidal)

2−3 変形台形曲線(modified trapezoid)

2−4 変形正弦曲線(modified sine)

2−5 合成正弦Gutmann F-3曲線(Gutmann F-3)

2−6 変形等速度曲線(modified constant velocity)

2−7 中間2点通過曲線(intermittent 2 points pass)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

● 特徴

・どのカム曲線も変位曲線の違いがほとんどわからない暗い小さい.

・しかし加速度曲線は大きく異なる.

・駆動力はであるから,加速度の最大値が小さいほどモータの負担が小さくて済む.

・加速度の最大値が小さいカム曲線は等加速度曲線,変形台形曲線,合成正弦F-3曲線である.

・この意味で高速カム駆動には変形台形・合成正弦曲線が適している.

・等加速度曲線はで最も小さいが,(3)で述べる振動特性がよくないので高速カムとしては使われない.

・変形等速度曲線は最高速度を小さくしたいときに使われる.ただし加速度の最大値は大きい.

・例示した両端停止曲線は左右対称のカム曲線であるが,カム機構を1方向にしか使わない場合には非対称曲線もある.非対称の変位曲線関数は様々であるが,一般的に前半で加速度が大きく後半で小さい方がよい.

・2−7中間2点通過曲線は両端停止と共に中間で他の機械と同期して位置が一致する必要がある場合に使われる.(移動する瓶へのラベル貼り,移動しながらネジ締めなど)

・通過点までの立ち上がり()には加速度をとしたが,場合によっては一旦行き過ぎて戻ることもある.場合に応じて関数形を変えるべきであろう.

 

● シミュレータの使い方

フォルダcamcurve内のcamcurve.cgraph2d.hを1つのワークスペースに入れてcompileする.

・スタート →(文字画面上で)カム曲線の選択

  (描画画面へ移って)カム機構・カム曲線の変位・速度・加速度グラフ描画

  (描画画面上で)’s’キーで運動継続, または画面操作

  ESCキーで終了

・描画画面上での操作

 ‘s’:運動継続

 ‘w’,’W’:描画の縮小拡大

 ‘r’:運動の逆転(正から逆へ,逆から正へ)

 ‘0’’7’:カム曲線の変更

 ‘c’:(文字画面へ戻って)3種のカム曲線を選んで(描画画面で)曲線の比較図表示

 

(3)       カム曲線と位置決めの残留振動(フォルダ名 camprofile camvibration

 

・従節の剛性が低いとばね性を持ち,立ち上がりの運動によって振動が生じる.その振動は位置決め時にもなくならず(残留振動),本来停止して行うべき作業が正しくできなくなる.

・この残留振動はカム曲線の種類によって大きく異なる.

 

● カム機構の振動のモデル

 

・振動方程式は

  

はカム曲線(立ち上がり曲線)の時間関数である.

立ち上がり時間(位置決め時間)を,リフトをとする.

・上式を正規化すると

  

 ただし 

とする.

はカム曲線(立ち上がり曲線)と振動成分の和として

   

と表せる.

・停止期間における振動が残留振動で

   ,  

・その正規化振幅aは実際の振動振幅)は

   , 

である.Aは位置決め時間比λの関数であり,λが整数の付近で0となり,また大きくなるにつれて山を作りながら小さくなっていく.この性質はカム曲線によって異なる.

 

● カム曲線の種類

・このシミュレーションでは前記の通常のカム曲線(2−0〜2−6)の他に

(7)無残留振動カム曲線(non residual vibration cam)

を取り上げる.

 

● 無残留振動カム曲線

・残留振動=0となるλ(位置決め時間比)があることがわかったが,このλは決まっており,ほぼ整数値である.逆に残留振動振幅=0となる位置決め時間比を指定して,そうなるカム曲線を導くことができる.

・正規化したマスの運動は前述のように

   

・振動成分をとすると

   

・このカム曲線の加速度をFourier展開して

   

・ただしであるから

   

・この解となったときの変位・速度をとすると,残留振動振幅A

   

   , 

)で残留振動=0としたければFourier係数を2つとって

   

   

を満足するとすればよい.

・一般的に)の複数の位置決め時間で残留振動を0としたければFourier係数項をn+1個とって

   

を満足するをとればよい.

・残留振動=0としたい位置決め時間の数より多くの項数をとってもよい.このとき上式だけではは一意には定まらないので,別の制約条件,例えば加速度の最大値をできるだけ小さくするという条件をつけるとよい.

・2指定位置決め時間に対して項を始めの2つでなくても第1・第3,第1・第4などの組み合わせでもよい.

 

●このシミュレーションでは,

(1)      カム機構でばね性を持つ従節の上のマスの振動の様子

(2)      カム曲線(変位・速度・加速度)とその上のマスの振動のグラフ

(3)      位置決め時間(:固有周期)によって残留振動振幅が変化するグラフ

を描画する.

 

● シミュレータの使い方

フォルダcamvibration内のcamvibration.cgraph2d.hを1つのワークスペースに入れてcompileする.

・スタート →(文字画面上で)カム曲線の選択

  (描画画面へ移って)カム曲線と振動の変位・速度・加速度グラフ表示

  (描画画面上で)’s’キーで運動継続, または画面操作

  ESCキーで終了

・描画画面上での操作

 ‘a’    : (左側)振動しているカム機構と(右側)振動推移曲線描画

  ‘b’      : (左側)位置決め時間と残留振動振幅関係グラフと(右側)振動推移曲線描画

 ‘c’      : (左側)2つのカム曲線を選択して位置決め時間と残留振動振幅関係グラフの比較

       (右側)2つ重ねて振動の時間推移

 

 ‘s’   : 運動継続

 ‘w’,’W’ : 振動成分のみの縮小拡大,及び

 ‘t’   : 運動を初期状態へ戻す

 ‘r’   : 運動の逆転(正から逆へ,逆から正へ)

 ‘0’’7’ : カム曲線の変更

       ‘7’の場合,文字画面に戻って残留振動=0となるλの数とその値を入力

 ‘f’   : (文字画面へ戻って)位置決め時間比λを変更

・変位振動は変更しない限りその振動部分だけを10倍に拡大して表示している.

[註]描画図ではマスの運動の始めの部分で負になっている.これはカム曲線の運動からのずれの振動成分のみを拡大して描いているためにそうなるのであって,実際は負にはならないのは当然である.

 

● 特徴

・どのカム曲線でも固有周波数(または位置決め時間)のある値で立ち上がり時に振動があっても残留振動が0となることがある.

・例えば,等加速度曲線では(立ち上がり時間として),サイクロイド曲線ではのとき残留振動=0となる.これは位置決め時間を固有周期の整数倍とすれば立ち上がり中には振動があっても停止時にソフトランディングして振動がなくなることを意味している.

・高速位置決めのために残留振動=0となるを取ることがよく行われる.ただしわずかでもあるいは系の固有振動数がすれると振幅が大きくなるので,これらがずれないように注意が必要である.

・固有周波数が高くなる(ばねが硬い)程,あるいは位置決め時間が長くなる程残留振動が小さくなる.

・その減少の仕方はカム曲線によって異なり,加速度が不連続のカム曲線は連続なカム曲線より振幅が大きい.すなわち高速位置決めには加速度連続のカム曲線を使用すべきである.

・一般に加速度が不連続のカム曲線では残留振動振幅はに比例して,加加速度が連続の場合はに比例して小さくなる.

・(7)の無残留振動カム曲線は早い位置決め時間で残留振動なしとしたいときに利用して便利である.

・通常のカム曲線では残留振動A=0となるのは最低λ=2であるが,無残留振動カムではλ=1.5A=0とすることができる.ただし位置決め時間がわずかでもずれると大きな振動が生じるという欠点がある.また加速度の最大値は程度で,変形台形曲線よりかなり大きい.

・(7)の無残留振動カム曲線でλ=3.5に設定すると(),λ>3以降で残留振動が著しく小さくなることがわかる.

・(7)の無残留振動カム曲線でA=0とするλの値を小刻みに並べると(例えば・・・・=3.2, 3.4, 3.6, 3.8

λ=34の間でAが非常に小さくなる.

・上述2つのケースは系のパラメータや位置決め時間にゆらぎがあるとき,多少の変化でも振動が小さいので動作が確実になるというメリットがある.