役に立つ技術2001.10.30

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ⅰ．振動・騒音

１－１．固体摩擦の振動による減少効果(1965)

・振動によって摩擦が小さくなることはよく経験する．地震によって砂地の建物が沈むのはこのせいである．

・高周波振動を接触部に加えると，固体摩擦は見かけ上流体摩擦に変わる．

・ただし振動加速度がある程度以上大きくないと摩擦現象効果は得られない．

・振動はＸ，Ｙ，Ｚのどの方向に加えても摩擦は減る．しかしＺ方向は飛び上がるのであまり勧められない．

・大きな運動をしているときに振動を与えてもあまり意味がないが，固体摩擦が悪さをする運動停止の直前に与えると極めて有

　効である．

１－２．浮力の応用による摩擦の減少(1966-67)

・重さのある物体を固体摩擦なしに支持するのは難しい．

・しかし，液体の浮力によって物体を浮かせて浮力と重力とが釣り合うようにすれば，浮きもせず沈みもしないマリモのような

　状態で浮かぶ．そうすると支持点に垂直荷重がかからず固体摩擦を０とすることができる．

・回転型振動計に応用して，固体摩擦のない固有周期１８秒を得ることができた．

・摩擦を生じさせないためには浮心と重心が一致しなければならない．これがコツである．そうでないとモーメントが発生し支

　持点に横に力が加わって摩擦が生じてしまう．

１－３．高性能の防振装置（特許）(1978)

・防振装置は固有振動数が低いほど（ばねが柔らかいほど）効果が大きい．

・縦方向の振動に対する防振は，ばねが物体を支持しなければならないのである程度以上柔らかくはできない．

・支持能力を落とさずばねを柔らかくするメカニズムを考案した．

・それは，縦の支持ばねに左右から横に圧縮したばねを付け加えることによって実現できる．

・ばねの圧縮力は，上下変位に対して負のばね性を与え，支持ばねのばね強さを低くする．

・実験によって従来の５倍以上低く，防振効果は２５倍以上大きくすることができた．

・今流行りの建物の防振に役に立ちそうである．

１－４．真空遮音による騒音低減（1975）

・騒音対策には音源対策・音伝播経路対策・遮音などの手法がある．

・最も効果があるのは騒音発生源をを真空中に置き外界から完全に遮断することである．これなら透過率は０である．

・歯車減速機の真空遮音による効果を調べた．理論的には０ｄＢとなるはずであるが，実際は外部モータとの連結部から壁に伝

　達する音があり，１０ｄＢの低減にとどまっている．しかし効果は他の手段より抜群によい．

・防音壁を２重にして内部の空気を抜くと壁からの伝播がなくなる．問題は外圧（１０ｔ／ｍ^２）に耐える構造をどう作るかに

　ある．

・また一般的に機械を遮音するということは，熱も遮断するということであり，それでもよいというケースに限られる．

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Ⅱ．機構・動力学

・動力学問題とは，機構要素の慣性力と振動を調べることである．

・「運動の速度を２倍にすると駆動力（トルク）は４倍になる」というのが原則である．

・しかし，速度を２倍にするためにあちこちを補強する必要が生じ重くなるので，速度の２乗以上で負担がおおきくなるという

　のが現実である．

２－１．機構の高速化の手法について(1977)

・運動の高速化を図るための問題点（メカニズム，ガタと摩擦，機械インピーダンスマチング，剛性と軽量化，機械系の寸法効　果，振動，高速化制御など）と対処の方法を提案した．

・切れない鋏を如何に切れるように使うかが制御の役割であるが，切れる鋏を作る方がはるかに有効であることを強調しておき　たい．

・ガタは振動の敵である．ガタをなくす工夫をすると摩擦が大きくなるが，高速化のためにはガタより摩擦を選んだ方がよい．

・動物の世界では脚の太さは体重の0.4乗に比例する．体型が相似なら1/3乗に比例し，脚の応力一定なら1/2乗に比例するはず　である．動物はその中間であり，大きい程太いがそれ程でもない．しかし大きい程応力が高いので体の大きさには限界がある．・これがかつての恐竜ではなかろうか．科学博物館の恐竜館では限界が140トンとの説明があった．

２－２．機構の動力学解析(1976-78)

・機械は一般的に言うとモータなどの入力θを適当な運動ｙ=y(θ)に変換するものと定義することができる．

・高速に動かしたとき生じる振動が問題である．

・この機械系の固有振動数ωnとモータ回転数ωmが一致すると共振して危険であることはよく知られている（危険速度）．

・しかしy=y(θ)の運動変換をする機械では，いわゆる分数次調波共振が起こることは知られていない．

・例えば入力軸の危険速度ωnより低いωn/2，ωn/2．．．の回転速度でも共振が生じる．

・機械設計では注意すべきである．

２－３．間欠位置決め機構の高速化－１(1977)

・間欠位置決めにはインデクスカム装置などがよく使われる．

・機構のばね性のために位置決め時に振動が生じる（残留振動）が，高速化すると振動が大きくなり，そこに高速化の限界があ

　る．

・普通は固有周期Tnの5-10倍の位置決め時間Tfが必要であるが，これを2-3倍まで短縮する方法がある．

・残留振動の振幅はTfを大きくするにつれて山谷を繰り返しながらだんだん小さくなっていく．

・この振幅の谷は位置決め曲線によって違うが，Tnの整数倍または(整数+0.5)倍の付近で生じる．

・この振幅が最小となるTfを選べば振動は無視できるほど小さくなる．

・機構を動かして振動が大きくても位置決め時間を短くすれば返って小さくなることがある．

・またはわざと重りをつけて固有振動数を低くする方法もある．

２－４．間欠位置決め機構の高速化－２(1978)

・前述のように位置決めの高速化は如何に残留振動を押さえるかにある．

・残留振動はブレーキによって簡単になくすことができる．

・ブレーキは位置決め直前にのみ作用させれば十分である．

・実験では直径300mmの鋼製円板の回転位置決めに20w程度の電磁ブレーキを利用し，従来300rpmが限度であった位置決めを600

　rpmまで上げることができた．

・振動を押さえるのに一寸したブレーキを利用するのは極めて有効である．

　　　　　　　　　　　　　　　Ⅲ．メカトロニクス

・メカトロニクスの特徴は知能化にある．知能化の試みは新たな要求をハードにつきつける．

・メカトロニクスは総合技術であるが，メカトロニクス固有の要素の性能向上の技術課題がある．

・要素技術の発展なくしてメカトロニクス製品の向上はあり得ない．

・知能化は機器だけではない．環境も知能化すればさらに機能が向上する．

・この延長上に後述のＲＥＣＳがある．

　　　　　　　　　　　　　　　　 Ⅳ．ロボット

・ロボットは重い．その割には速度を出せない．

・産業用ロボットを人間と比較したデータによれば，体重に対するアーム速度・可搬重量ははるかに劣る．

・れらの性能は，メカニズムを工夫し，軽量化設計することによって改善できるはずである．

４－１．２重駆動精密ロボット(1984-91)

・精密ロボットは大きく２次元・３次元的に動きかつ微小な位置決めができることが要求される．

・機構を頑丈にして制御系を工夫すれば従来技術でも可能である．これは富士通研が示したがかなり高度な技能を必要とする．

・微動＋粗動の２重駆動とすれば容易に実現できる．

・開発したロボットは粗動作をモータによるウオームの回転で，精密動作をＰＺＴによるウオームの直動で制御することが特徴

　である．

・数μmの文字を粗動・微動の協調によって書くことができた．これまでには富士通の精密ロボットが米粒に文字を書いた例が　あったがそれを一桁下回る大きさの文字である．

・動きのレンジが大きい割に高精密である機構には粗動・微動の考え方が有効である．

４－２．ロボットアームの効率的な逆運動学解法(1984)

・効率的な逆運動学（ワークの位置姿勢から関節変位を求める問題）の計算法を提案した．

・これは，任意の直列構成の６自由度ロボットアームに適用でき，通常のJacobian法の1/10の計算時間であること，可能な８通

　りの解を得られることが特徴である．

・当時逆運動学の解法が数多く発表されているが，計算効率と８通りの解を得る点で2001年の現在でもこれに勝る解法を見ない．

・計算パッケージはこのHomepageにあり，自由に利用できる．

・これはその後のロボット解析・設計システムに利用している．

４－３．ロボット設計システムの開発（特許）(1985-96)

・ロボットアームの設計システム「ＴＯＣＡＲＤ」(Total Computer Aided Robot Design)を開発した．

・これはロボットの構造も詳細な寸法，使用するモータや機械要素などを自動的に決定する総合設計システムである．

・運動がロボット構成に密接に関係し，力学が詳細設計に関係することを示し，基本設計と詳細設計を切り離して行うことによ

　り，設計手順を単純化している．

・詳細寸法と力学は相互に影響し合うので，ロボットパラメータの「感度解析」を採用して詳細寸法の繰り返し演算の収束を図

　った．

［註］現在パッケージは手元にあるが，コンピュータシステムが変わり昔のコンピュータが世の中から消えてしまったため，利

　用できないでいる．何とかならないものだろうか．

４－４．ロボットによる移動中のライン上での組立作業のＳＴＳ制御(1999)

・お手玉(juggling）のように，投げ上げた物を決まった時刻に位置・速度を手と一致させるような運動を「ＳＴＳ運動」

(State-to-State)，この運動制御を「ＳＴＳ制御」と名付ける．

・ＳＴＳ制御の例として，流れるライン上での組立作業がある．移動しながらの作業は間欠的に止まったり動いたりするライン

　とロボットのシステムよりも高速化が可能であり，加速・減速の両方にエネルギーを必要とする現在のロボットでは省エネル

　ギーにもなる．

・「ＳＴＳ制御」は「ＰＴＰ制御」「ＣＰ制御」と異なる新しい概念であり，制御方法も異なる．

・目標位置・速度からのずれをフィードバックするという普通の制御では望みの時刻に望みの位置速度を得ることはできない．

・「ＳＴＳ制御」は次のように行う．

・予め適当な時々刻々の位置姿勢を決めておき，ＣＰ制御を行う．

・軌道のずれが生じたときは運動の一定時間間隔毎に軌道を新たに生成する．

・この時々刻々の修正によって最終目標の位置速度が正確になる．

・ピンを等速で動くベルト上の孔に挿入する実験では，0.1mmクレアランスまで成功した．

・更に移動する穴の脇をロボットハンドが途中で捕まえ固定して一緒に動く状態で挿入作業をする実験では0.5mmクレアランス

　に成功している．

４－５．可変パラメータ制御による制振(1992)

・ブランコは乗り手がうまくこぐと振幅を徐々に大きくすることができる．揺れに従って体重を上下させると振幅が大きくなる

　が，これは振り子の長さを変えていることであり，ばねマス系ではばね強さを変えていることに相当する．

・これを逆に利用すると振動の振幅を小さくすることができる．これが可変パラメータ制御による制振である．

・この原理を方向可変の板状梁を挿入したフレキシブルアームの２次元曲げ振動の制御に利用した．

・理論を導き，実験を行ったが，ダンパを挿入するよりは効果が少なかった．

・風で鳴るポールの制振，水中の右図による振動の減衰などに応用できる．

４－６．ロボット運動の高速化の手法 (1978-1991)

・ロボットの高速化のためのハードとソフトのアプローチを提案である．

・ロボットの各種構成要素（アーム・軸・モータなど）の強度・出力／重量比を調べてみると，全て材料からの改善が必要であ

　ることがわかる．

・人間と比較してロボットの能力が劣るのはモータの能力が劣るからである（人間は1ｇ/ｗ，サーボモータは30ｇ/ｗ）．

・最短時間制御（ＴＯＣ）は高速化の究極の制御法である．

・しかしＴＯＣでは２倍の高速化がせいぜいである．ハードの改善の方が高速化の効果が大きい（切れない鋏を上手に使いこな

　しても切れる鋏にはかなわない）．

・構成要素の改善はロボットとは違う分野の進歩を待たねばならない．サーボモータの磁石が強くなればモータの性能は上がる

　が強い磁石の開発は材料研究者に頼るしかない．

・人間の筋肉に相当するアクチュエータとして形状記憶合金（ＳＭＡ）がある．性能は高いが大きな変位が得られず，実用にほ

　ど遠い．筋肉のように30%以上の歪み率が得られれば実用になるが，そのような材料は見つかっていない．

・一般にアクチュエータは体積（重量）に比例したパワーが得られる．例外は面積に比例する静電引力の利用である．日立

　(株）柄川索氏の静電アクチュエータの研究があるが中断しているのは惜しい．

　　　　　　　　　　　　　　　　　Ⅴ．超音波センサ

５－１．高精度超音波センサ(1982-85)

・高精度超音波センサの開発は佐々木助教授のアイデアである．

・超音波パルスの反射のフライトタイムを精度よく測り，奥行き精度±０.１ｍｍを得た（特許）．

・これは通常の1/10以下の分解能を持っている．

・高精度は反射波の０クロスの時間を測ることにより達成される．通常はしきい値を切るまでの時間であり，振幅によって変わ

　ることが避けられない．

・送受信器をスキャニングして物体の方向を±０.３゜の精度で測ることができた．

　この高精度は振幅最大の方向を内挿法により求められる．

・角柱の片面の角からも超音波の反射を捕らえることができる．これにより物体の認識も可能である．

・この計測装置は超音波工業（株）で製品化されているが，自作も可能である．

５－２．超音波センサによる物体認識(1988-1999)

・超音波による認識は超音波探傷，超音波診断などで実用になっているが，我々が生活する環境の認識はまだできていない．

・高精度超音波センサを使うと円柱，角柱の認識とロボットによる把握などを高速に行うことができる．

・また，テーブル上にランダムに置かれた物体の認識と把握，ドアのノブの認識とドアの開閉など３次元作業への応用も可能で

　ある．

・超音波センサは２次元形状物体の認識には優れているが３次元認識は難しい（円柱・角柱はよいが立方体は無理）．

・音色（波形）の違いから周種の形状の違いを区別できるが，コウモリのようにはいかない．

［註］「半波長以下のものは見分けられない」というのは音波では本当でない．音波は縦波であるから髪の毛でも反射があり検

　出できる．このことは実験で確認している．

　　　　　　　　　　　　　　　　　Ⅵ．移動ロボット

・人工的な環境は，月面のような荒れた面とは異なりある程度整っている．

・このような環境では脚式でなくても，メカニズムの工夫によって十分走行の機能を達成できるはずである．

・一方車輪式は，自動車の歴史を見るように技術蓄積があり利用しない手はない．

・この観点から「ＴＯＲＯＶＥＲ」が生まれた．

６－１階段昇降ロボット「ＴＯＲＯＶＥＲ」（特許）(1983-94)

・階段昇降できるメカニズムは脚式移動機構が普通の考え方である．しかし脚式は制御が難しく安定性も悪い．

・特殊なメカニズムの階段昇降ロボット「ＴＯＲＯＶＥＲ」を開発した（特許）．

・これは，星型のアームの先に車輪をとりつけ，平地走行には車輪を，階段昇降には星型アームを回転させるように制御するよ

　うになっている．

・このメカニズムの特徴は，階段昇降が安定であり，制御則が簡単なことである．

・「ＴＯＲＯＶＥＲ－Ⅰ」は，車輪と星型アームを別々のモータで駆動し，階段であることを認識して駆動を切り替えるように

　なっている．これは７０ｍｍの階段昇降に最高０.７５秒／ステップの速度を得ている．

・このタイプは東芝と共同で開発した原子力保全ロボット「Ａ　ＭＯＯＴＹ」に応用された．

・「ＴＯＲＯＶＥＲ－Ⅲ」は，遊星歯車機構を「１入力２出力」として利用し，車輪と星型アームを１つのモータで駆動する．

・２出力の中，少しでも抵抗の小さい方が動き大きい方は停止したまま，という特徴があり，この性質をうまく使っている．

・平地走行と階段昇降の運動切り替えは自動的に行われ，制御は全く不要となった．

・前輪をキャスタとして，後輪左右の速度差を与えれば螺旋階段も昇降できる．

・「ＴＯＲＯＶＥＲ－Ⅲ」は後述の家庭内作業ロボットに応用されている．

・この機構はロボットコンテストでも高校生のアイデアとして登場した．

６－２．超音波灯台によるナビゲーション(1989-95)

・移動ロボットを軌道制御するためには必ず外界センサが必要である．その外界センサを頼りに移動制御する．

・ＴＶカメラによる外界認識が一般的であるが，視覚認識は難しい．

・超音波を各所に取り付けてその認識をすればロボットの位置姿勢を計算でき，ナビゲーションが容易になる．

・無線通信と超音波距離計測を組み合わせた灯台方式を開発し，廊下で実験した結果，ナビゲーションの制御が数cmの実用にな

　る精度を得ている．

６－３．マーク認識によるナビゲーション(1999，口頭発表)

・ＴＶカメラによる外界認識は難しいが，目立つマークを探し出すのは容易である．

・天井に張り付けたバーコードをロボットが見て自分の位置姿勢を知る視覚灯台システムを開発した．

・超音波灯台と比較して装置は簡単だが，認識速度に劣る．

・現在，制御実験を行っているところである．

６－４．移動ロボットのフィードバック制御 (2000，口頭発表）

・移動ロボットのフィードバック制御は搬送ロボットなどで既に行われているが，安定性や即応性など理論解析はなされていな

　い．

・解析結果によると以下のことが分かる．

・軌道誤差が小さければ普通の線形フィードバック制御と同じとみなしてよいが，誤差が大きくなると線形では安定なのに不安

　定になる．

・円軌道のように曲率のある軌道ではＰＩＤでないと定常偏差が生じる．

・移動ロボットの構造は２駆動１キャスタ(2DW1C)が安定性・軌道追従性の点で，前輪駆動前輪ステアリング(FDWFS)，後輪駆動

　前輪ステアリング(RDWFS)より優れている．

・外界認識によるナビゲーションでは離散的なセンシングであり，誘導線による連続的なセンシングより安定領域が狭くなる．

［註］移動ロボットの「安定性」は通常の概念と違う．線形化システムが安定であればぐるぐる回りながら時間をかけて必ず軌

　道に戻るがこれは安定とは呼ばない．ここでは「回転しないで戻る」ことを安定と言っている．

　　　　　　　　　　　　　　　　Ⅶ．多指ハンド

・指先がポイントであり，物体との接触位置が変化しない「指先による操り」問題は数多く論じられているが，「指の腹による操り」の研究は殆どない．人間でもロボットでも後者の操りが圧倒的に多い．

７－１指の腹による多指ハンドの運動学(1994-)

・指の腹による物体の把握と操りの運動学を定式化した．

・アームの運動学と違って式は複雑で，順運動学の解の方が逆運動学の解より難しい．

・物体の操りでは，最終目標位置姿勢とする指関節角のいく通りもの解が存在する．

・指と物体との接触は滑り・転がり・ツイストとその組み合わせの状態で表すことができる．

［註］多指ハンドによる操りのいくつかの例を見ると，動きがどこか不自然である．これは力学を考慮していないためで，実際

　にシミュレーションを役立てるには次の力学を考慮したシミュレータが不可欠である．

［註］また物体の運動を生じさせる指の運動はすぐに限界に達してしまう．大きく動かすには「持ち替え」をするか手首の運動

　を付け加える必要があることが分かる．

７－２．指の接触運動と摩擦力の関係(1999-，口頭発表）

・一般に摩擦係数は一定であると考えられており，その条件で多くの分野で力学が論じられているが，それは誤りである．

・摩擦係数は滑り・転がり・ツイストの大きさによって異なる値を取る．

・ツイストを伴う滑りの摩擦係数は単純滑りのときより小さい．

・純ツイストの滑り摩擦係数は０である．また純滑りのツイストモーメント係数は０である．

・転がりを伴う滑り・ツイスト運動は摩擦係数を減らす．

・純転がりでは滑り摩擦係数とツイストモーメント係数は０である．

・滑り率がによって摩擦係数・モーメント係数はほぼ[1-exp(-s/s0)]のように変化する．

７－３多指ハンドと分布型触覚センサ(1985，未発表）

・３指ハンドを何種類か設計製作をした．

・小型でアームに搭載でき，かつ２ｋｇのワークを操ることを想定し，モータと指関節の伝達機構として，歯車列，タイミング

　ベルト，リンク機構の３種を試みた．

・歯車列は摩擦とガタが大きく，タイミングベルトは強度が不足し，リンク機構は可動範囲が狭いという３者３様の欠点がある．

・やはり，伝達はワイヤがよさそうである．

・また，半導体センサによる指搭載のアレイ型圧覚センサを開発した．

・センシング部分はリソグラフィの技術で製作できるので超小型化が可能であるが，その上にかぶせる柔軟体の小型化が問題と　して残っている．

［註］リソグラフィで製作する圧覚センサが技術的に可能となっても，相当な量が売れない限りコストが合わない．実用化はや　はり当分無理であろう．

　　　　　　　　　　　　　　　　　Ⅷ．ロボットの総合化

８－１．ロボット技術一般論(1990)

・ロボットが人間並みの能力を備えるにはどんな要素技術が必要かを調べた．

・ハードウェアの観点から人間と現在のロボットを比較して，体重当たりの速度・可搬重量・器用さなど全てに劣るのは構成要

　素が重いからである．

・モータは３０g/Wであるが，これを１g/Wにする必要がある．他の要素（減速機など）も同様の能力が必要である．

・人間は決して最適の構成をしていない．指は５本はいらない．

・人工的な環境では移動には脚である必要がない．車輪か前述の「ＴＯＲＯＶＥＲ」のような特殊機構で十分である．

・ロボットを実用化するにはハイテクの普及まで待つのではなく，後述の「ＲＥＣＳ」技術を適用すべきである．

８－２．原子力保全ロボット「Ａ　ＭＯＯＴＹ」(1984)

・これは原子力発電格納容器内でメインテナンスを行う目的のロボットである．

・実機を製作し，モデル動作の実験に成功している（実験担当東芝）．

・１段210mmの階段昇降には37秒／ステップ（高さ210ｍｍ）かかった．350kgという重量が動作を遅くしている．

・機械系の「寸法効果」を身を持って教えられたケースである．

・階段に脚を下ろすとき衝撃がある．衝撃エネルギーはmv^２/2であり，大きさ・速度の全てが比例すると仮定するとエネルギー

　は［Ｌ^７］の次元を持つ．上のケースでは寸法が前述［ＴＯＲＯＶＥＲ」の約３倍であるから衝撃エネルギーは3^７＝19863倍と

　なる．

・大きな物体の衝撃を緩和することが如何に重要かがわかる．

・また，構造部材は寸法の３乗に比例する重量を支えるために寸法の１乗以上に太くする必要がある．相似形なら100kgである

　はずが350kgとなったのはこのためである．

・４つ足動物の体重Wと足の直径dとの関係を調べたことがある．種によるばらつきは大きいが，ほぼdはW^0.4に比例することがわ

　かった．

・もし体系が相似ならW^1/3に比例し，足に加わる応力が一定ならW^1/2に比例する．

・現実はこの中間であるから，象は猫ほど足が太くないといえる．

・大型ほど足の応力が大きくなるので，４つ足動物には無限に大きな種は存在しない．

［註］「Ａ　ＭＯＯＴＹ」は東京大学精密機械工学科の共同開発に従事した研究室の頭文字をとった吉川弘之教授の命名である

（新井民夫・三好俊郎・小田原豪太郎・大園成夫・高野政晴・吉川弘之）．

　　　　　　　　Ⅸ．ＲＥＣＳとその福祉ロボットへの応用

・「ＲＥＣＳ」は機械に少しでも頭の良い作業能力を持たせたいときに役に立ち，かつこれが唯一の手法である．

・福祉ロボット，人間にしかできなかった微妙な組立作業，掃除・洗濯，消防，農業・林業，リサイクル等々，あらゆる分野に

　役に立つ．

・先端技術が成熟して実用になるまでは「ＲＥＣＳ」技術を利用すべきである．

９－１．ＲＥＣＳコンセプトの提案(1993)

・「ＲＥＣＳ」とは”Robot/Environment Compromise System”のことである．

・ロボットが作業し動き易い環境を作る．ただし人間に邪魔になってはならない．

・ＲＥＣＳには固有の技術課題がある．これはメカトロニクスの発展に要素技術の向上が欠かせないのと同じである．

・これがＲＥＣＳの基本コンセプトである．

・福祉ロボットは汎用である．その実現には高度なあらゆるロボット技術を必要とする．この知能ロボットそのものの開発は難

　しく実用化に長い年月を必要とする．しかし福祉ロボットはそれを待っていられない．

・これに対応するのがＲＥＣＳである．

・ロボットにとって難しい１つは外界認識である（対象物を含む）．これには標識をつける．

・もう１つは対象物のハンドリングである．これには大分類した「作業別汎用ハンド」を提案する．

・環境改変とロボット技術との分かち合いがＲＥＣＳの固有の技術課題である．

９－２．福祉ロボットのための移動技術(1996)

・ＲＥＣＳに基づいて，屋内移動ロボットとそのナビゲーションシステムを開発した．

・これは，信号付き光灯台とＰＳＤによる位置姿勢計測システム，「ＴＯＲＯＶＥＲ－Ⅲ」による段差乗り越え移動機構，およ

　び力覚センサと超音波近接センサによるドッキングシステムの３サブシステムからなる．

・またマニピュレータを搭載して，ドアを開閉する動作を行うシステムを作った．

・ドアの把手はハドリングし易いレバー式とし（環境改変），ドアに認識マークをつける．

・ＴＶカメラの画像上のマークの位置と大きさから把手の位置を知り，把手をつかむ．

・レバーの回転とドアの開閉，ロボット本体の戸口からの出入りの制御実験を行い，十分な結果を得ている．

９－３．食器後片づけ作業ロボット(2000)

・ＲＥＣＳに基づいて食器の後片付け作業システムを開発した．

・食器にコード化したロボットにとって目立つ印をつけて食器の位置と種類の認識を確実にする．

・食器の認識と把握，食器洗い機への搬送と中へのセットの一連の動作を実験し，期待した成果を得ている．

［註］無毒で洗っても落ちない，そしてロボットに見やすいマークのための材料探しに数年かかった．これがこの場合のＲＥＣ　Ｓ固有の技術である．

９－４．家電製品リサイクルのためのロボットによる分解作業(2001)

・家電リサイクルは始まっており，その生産性が問われる．

・現在分解作業は全て人手に頼っているが，組立と同様に「自動分解」技術を確立しないとコストに耐えられなくなる．

・「自動分解」にＲＥＣＳを応用する．

・分解箇所を人間がマークをつける．これは軽作業であり，少人数で足りる．

・ロボットはマークを頼りに場所と種別を認識し，状況に応じた分解作業をする．

・このコンセプトの基にテレビとパソコンの分解自動化を試みているところである．