RECSコンセプト −ロボットを家庭・社会で利用するための技術−    2008−7−18

 

ロボット利用のための最近の技術開発状況

・最近,ロボットを家庭や他の人間が出入りする場所でロボットを利用するために,ロボット本来の先端的な技術開発でなく,既存の技術を駆使して何とか実用化しようという機運が高まっており,「ユビキタスロボット」とか,「ユニバーサルロボット」などと名付けて,研究が始まっている.

・最先端のロボット技術は実用化にはほど遠く,福祉やレスキューなど現在緊急なニーズに応えられないので,実用化のための全く異なった概念が必要なことは誰しも思うことであろう.

・その概念がRECSコンセプトである.

 

RECSコンセプトとは

RECSコンセプトはまさにその技術開発の基本的な考えを示したものであり,1994年に著書として初めて登場した.

RECSRobot Environment Compromise Sytem(ロボット環境妥協システム)”のことであり,その基本概念は以下の通りである(「RECSコンセプトに基づく屋内移動ロボットシステムの開発」,精密工学会誌1996.6, 815p).

(1)ロボットと環境は技術的妥協をする.

(2)しかし環境改変は最小限にとどめる.

(3)環境改変は人間に優しいものとする.

(4)全ての人間は多少の環境改変を受け入れる.

(5)社会もロボットを導入しやすいインフラストラクチャを持つ.

(6)ロボットの作業性能を向上させるには,環境にもインテリジェンスを持たせる.

(7)ロボット・環境の妥協の技術が存在する.この技術開発を推進すべきである.

(8)RECSはまだ実用化の見込みのない技術が日の目を見るまでの「繋ぎの技術」である.

・10年以上過ぎた現在でも上記の基本概念に追加も削除もない,そのまま通用する.

・製造工場で働くロボットの環境は100%改変されている.産業用ロボットは単能で,ロボット向きに環境を整えても一向に差し支えないからである.

・自動車交通では,交通信号設置が環境改変の最たるものであり,カーナビが位置を教え,無線で道路の混雑状況を教えてくれるなど,環境のインテリジェント化が進んでいる.道路に誘導線を埋め込み,障害物に敏速に反応する技術があれば自動運転が可能になり,高齢者でも酔っぱらいでも安心して乗れるのだが....

・福祉ロボットは1つの仕事ができればよいというものではなく,対象物も仕事も実に多様である.

・それを可能にするには,人間に近い認識能力・判断能力・器用な操作能力を必要とするが,これは至難である.

・そこで考えられるのは幼いロボットでもできるように周りを整えることであるが,これは一寸考えれば誰も思いつく易しい概念である.

RECSコンセプトは,製品の分解分別作業ロボットにも応用できる.

・また製造工場でも,多機能で多様性に対応するロボットが今後必要とされる時代が来ると思うが,そのロボット開発にRECSコンセプトが役に立つであろう.

 

RECS技術開発のための障害

RECSコンセプトがロボット利用への重要概念であることは誰しも認めるであろうが,ニーズが高いにも拘わらずロボット研究者が手を染めなかったのには理由がある.

・それは,RECS技術が研究論文として認められないからである.

・既存技術の応用研究では,たとえ環境改変を巧妙に行っても,所詮は物まねでしかない.研究に新規性が乏しいのである.

・この文の始めに引用した「・・・ロボット」でも概念を提案するまではよいが,実際に実用化研究となると,多分「できて当たり前」としか評価されないに違いない.これは筆者も経験済みである.

RECSに基づくロボット開発研究には,今までできなかったことができるようになったという結果に,余程の価値があることを主張しなければならない.あるいは研究論文の価値判断基準を改める必要があろう.

 

蛇足 −RECS研究の経歴−

RECSコンセプトの芽生えは1980年代に東芝と共同研究した原子力発電支援ロボットの開発研究である.

・このロボットに「MOOTY」と名付け,当時はかなり名が知られていた.メンバーには吉川教授(東大総長),大園・小田原・三好・新井各助教授:当時)がいた.

・原子力発電格納容器内で検査・保全を行うロボットであるが,著者の担当は階段を昇降できる移動ロボットの開発であった.

・4脚歩行ロボットを先ず考えたが,実用化にはほど遠いので,新たなメカニズムとして星形のアームを持ち公転と自転をする車輪式移動機構を考案したのである(通称TO-ROVER).(このメカニズムは既にSFに登場しており,特許にはならなかった)

・ただし,TOROVERが安定に階段昇降できるためには階段にそれなりの条件が必要であった.

・それは格納容器内にある階段では踏み板しかないので,縦の板が必要ということである.

・大した改変ではないが,これがRECSコンセプトの要諦である.

・その後,90年代になって福祉ロボットのニーズが高まり,実用的な福祉ロボットの開発にはRECSコンセプトが不可欠と認識するに到り,RECSの基本概念をまとめ,それに基づくロボット開発を始めたのである.

・1994年4月に東大で「人間と共存するロボットシンポジウム」が開催され,その場でRECSコンセプトを発表した.

・シンポジウムの各講師の発表内容は「ロボットルネッサンス」(吉川弘之監修,1994年11月)に載せられているが,そこでは講師の1人村上陽一郎教授も環境改変を主張している.

・90年代以降に,RECS技術の具体的な開発研究を細々と続けて,その成果は2001年以降の精密工学会講演論文集に載っている.

・例として,ドア開閉するロボット,室内移動ロボットシステムのシナリオと個別の技術(灯台誘導方式・段差乗り越え・位置決め・GPSの利用など),食器後片づけ,食器洗い,洗濯,ボトルの栓の開閉,飯盛り等々.

・いずれも実用には到っていないが,それは力不足もあるが,RECS技術にも生半可な思いつきでは解決しないということを意味している.

・また前述のように,周囲の研究に対する評価が著しく低いということもある.オリジナリティを主張できないのである.

RECSコンセプトは工業製品の分解分別作業にも適用できる.

・このRECSコンセプトに基づくロボット分解作業の研究も行い,精密工学会に発表したが,ニーズがないのか反応が鈍い.